短編「いのちの輝き」
注:実在の人物とは無関係です。
あの日のことを、もう遠い昔のように感じる。
付け焼き刃の実験結果を手に、責任は感じるだけで十分であって取るものではないと何度も言い聞かせ、意を決してうがい薬によるパンデミック対策ついて知事殿に奏上した。
全国のポビドンヨードを我々が買い占める隠れ蓑にするために市民だけでなく、知事殿をも煽動したのは、ポリ塩化ビニルが培養に適していると見切り発車して雨がっぱを募って失敗したトラウマを彷彿とさせた。
知事殿に捧げた世紀の実験「いのちの輝きプロジェクト」は暗礁に乗り上げていた。
培養に不可欠なポビドンヨードが致命的に足りない。今まで確保のために病院や保健所の統廃合まで推し進めてきたというのに。
統合のため新規に建設された病院のコストは予算をはるかに超え、経済的とはお世辞にも言えたものではなかったし、採算の取れない科は移設されていない。
あの院内感染も、収束しないパンデミックも起こるべくして起こったのだ。
阪神間の移動制限も「輝き」の実験のためだった。
つまり、知事殿にこれ以上我々のために失策を重ねさせるわけいかないのだ。
これが我々の総意のはずだった。
ところがどうだろう!完成した「いのちの輝き」に照らされて我々の忸怩たる思いは浄化されていく。
自由ないのちの輝きのためならば、すべてが許される。真理を前に滂沱する。
「いのちを輝かせるためならば、悪魔にだって魂を売ろう」
知事殿から使命を賜ったとき胸に刻んだ誓いだけが残った。
あとがき
点と線がつながり処女作執筆と相成りました。
ちなみに、「彼ら」の次なるプロジェクトは「雨がっぱ燃料電池化プロジェクト」です。